株式投資③

IPOのネット抽選は本当に当たらないのか?1年間申し込み続けた真実の結果


株式投資の裁量取引の中でも、リスクを抑えて安定的に資金を増やすという意味において極めて有用な手法として、イベント投資があります。イベント投資とはイベントドリブンとも呼ばれる投資手法で、株式市場に起こるある特定のイベントに着目し、そのイベントにより株価がどのように変動するのかを明確な根拠に基づき分析し売買します。ここでは、イベント投資の中でもよく知られた人気の手法であるIPO投資について、実際に利益が期待できる手法なのかどうかを、具体的に検証していきたいと思います。IPOとはInitial Public Offeringの略で、株式公開を意味します。このような、新規株式公開される銘柄の株を上場前に購入し、上場後の初値で売却することで利益を上げる手法がIPO投資です。上場後にIPOを買い付けるIPOセカンダリー投資と呼ばれる手法もありますが、上場前に購入する手法と比べて明らかにリスクが増大しますので、ここでは上場前に購入する手法に絞って話を進めます。実際にこのようなトレードを行うことにより、どれだけの勝率と利益が期待できるのかについては、別の記事にて集計していますので、そちらを参考にしていただきたいのですが、近年では、勝率が約90%、平均株価騰落率が2倍超と、極めて高い期待値を示しています。

>IPO投資の勝率と期待値について知る

つまり、新規公開される銘柄全ての株を上場前に購入し、上場後の初値で売却することができれば、平均で2倍以上のリターンが得られるということになります。しかし、ここで問題となるのが、IPO株をいかにして購入するかということです。そこで、IPO株を購入する方法について、考えてみたいと思います。

 

IPO株の購入においてよく耳にするのが、申し込んでも全く当たらない、当選確率が低すぎる、当選するコツはないのか、などという声です。そもそもこれらの疑問を解決するためには、IPOの抽選の仕組みを理解することと、実際に申し込み続けることでどの程度の確率で当選できるのかを知る必要があります。これらを知った上で、実際にIPO投資に取り組むか否かを判断すべきです。そこで、IPOの抽選の仕組みと、実際に申し込み続けた際の当選実績を、順に示していきます。

 

(1)IPOの抽選の仕組み

IPO株を購入する手段は、大きく分けて2種類あります。つまり、2種類の方法で、証券会社は投資家にIPOを提供しています。

・店頭裁量配分

・ネット抽選配分

 

まず、IPOをどのように投資家に配分していくのかを、順を追って整理します。IPOは、各証券会社が投資家に配分しますが、全ての証券会社で全てのIPOを購入できるわけではなく、そもそも証券会社への割り当て比率が大きく異なります。これは、IPO銘柄ごとに異なり、それぞれのIPOに主幹事証券会社と幹事証券会社が設定されます。全売り出し株数のうち、主幹事証券会社が80〜90%を、残りの10〜20%を幹事証券会社が取り扱います。多くの場合、主幹事証券会社は1社、幹事証券会社は5〜10社程度ですので、全体の80%以上を1社の主幹事証券会社で取り扱うことになります。一方、幹事証券会社の場合、幹事証券会社が10社のIPOであれば、10〜20%を10社で扱うわけですから、1社あたりたったの1〜2%ということになります。この時点で、明らかに、主幹事証券会社から申し込む方が圧倒的に当選確率が高いと言えます。

 

続いて、各証券会社が取り扱うIPO株をどのように投資家に配分していくかについてです。取り扱うIPOのうち、まずは機関投資家に10%程度を優先的に配分します。そのため、一般投資家に割り当てられるのは、取り扱うIPOの90%です。この90%のIPOを、店頭裁量配分とネット抽選配分に分配します。実はここが非常に重要なポイントで、証券会社によって若干の違いはありますが、多くの証券会社では店頭裁量配分が90%、ネット抽選配分が10%です。つまり、一般投資家が証券会社からIPO株を購入するためには、圧倒的に店頭裁量配分で獲得する方が有利なのです。一般投資家向けに、店頭裁量配分とネット抽選配分で提供されるIPOの割合を計算すると、次のようになります。

・店頭裁量配分

主幹事証券会社取扱分80%×一般投資家割当分90%×店頭裁量配分90%=64.8%

・ネット抽選配分

主幹事証券会社取扱分80%×一般投資家割当分90%×店頭裁量配分10%=7.2%

この割合のIPO株を、各証券会社に口座を持つ一般投資家が獲得にいくことになるのですが、ここで重要になるのが各証券会社の口座数、つまりライバルの数です。当然、証券会社によって口座数は大きく異なりますが、数十万〜数百万口座と考えてよいかと思います。そのため、口座数が10万口座の証券会社と、100万口座の証券会社では、当選確率が10倍異なるのです。もちろん、口座を持っている顧客全員がIPOに申し込みをするわけではありませんが、口座数の少ない証券会社から申し込む方が当選確率が上がることは間違いありません。つまり、口座数の少ない証券会社が主幹事証券会社となるIPOは、必然的に当選確率が上がるのです。ただし、実際のところ、口座数の多い大手の証券会社が主幹事証券会社となるケースが多いため、チャンスはそれほど多くはありません。そこで、口座数が100万口座の証券会社で申し込むことを想定し、売出株数300万株のIPOと仮定して当選株数の期待値を計算すると、以下のようになります。

・店頭裁量配分=売出株数300万株×64.8%/100万=300万×0.0000648%=1.944株

・ネット抽選配分=売出株数300万株7.2%/100万=300万×0.0000072%=0.216株

つまり、100株獲得できる確率は、店頭裁量配分では1.944%、ネット抽選配分では0.216%という計算になります。このように、非常に低い確率の中、一般投資家はIPOに申し込みを続けているのです。

 

それでは、一般投資家が比較的高い確率でIPOを獲得するための方法である店頭裁量配分は、どのようにして獲得することができるのでしょうか。それは、証券会社の支店で口座開設し、窓口で申し込む方法です。こればかりは、証券会社の担当の営業マンとの関係性を良好に保ち、人と人とのやり取りの中でIPOを売っていただくしかありません。つまり、人間関係や交渉術などが重要ポイントとなりますので、この点を十分に理解した上で真剣に取り組んでみたいと感じられた方は、是非とも取り組まれることをお勧めします。一方で、このような煩わしい作業は行わず、ネット抽選配分を地道に狙いたいという方も多いはずです。確かに、ネット抽選配分で当選する確率は、上記の通り極めて低いのですが、ゼロではありませんし、年間100社近くのIPOが上場するわけですから、いずれ必ず当選するという考えのもと、淡々とネットで申し込み続けるという手段も考えられなくはありません。そこで、実際にネットで淡々と申し込み続ける場合についても、考えてみたいと思います。

 

 

(2)ネット抽選への申し込み

既に解説している通り、一般投資家がIPOを獲得するためには、店頭裁量配分かネット抽選配分のいずれかを獲りに行かなくてはなりません。このうち、店頭裁量配分の方が明らかに獲得できる可能性が高いのですが、証券会社の営業マンとのやり取りを必要としないネット抽選配分でのわずかな確率を獲りにいくことの価値について考えてみます。単純に確率論のみで考えるのであれば、上述の通り各条件を加味して計算をすることで、1%にも満たない確率を導き出すことができますが、数字が小さすぎて正直イメージしにくいかと思います。また、証券会社ごとにネット抽選におけるルールが異なり、抽選に参加できるチャンスの回数がステージによって変わる証券会社や、口座残高が高いと当選確率が上がる証券会社、IPOへの申し込み株数が多いと当選確率が上がる証券会社、全顧客に対して平等にコンピューターで抽選を行う証券会社など様々です。これらは個人の資金量にもよって異なりますので、ここでは、1社あたり申し込みする金額上限を100万円とし、上記のような抽選チャンス回数が2回以上となる特別な権利は一切持たない状態の口座を使用し、実際に1年間ネット抽選申し込みを続けた結果をご紹介します。ちなみに、明らかにIPOの公募価格より上場時の初値の方が低くなる、いわゆる公募割れのリスクが高いと考えられるIPOは避けています。公募割れリスクの考え方については、それだけで膨大な解説が必要となるためここでは割愛しますが、IPOの初値予想についてはインターネット上でも多くの投資家が分析していますので、複数の投資家の分析結果を見ることで大いに参考になります。ぜひ活用されるとよいかと思います。

 

それでは早速、2019年の1年間、実際にIPOのネット抽選に申し込みを続けた結果をご紹介します。下表が全ての結果となりますので、ぜひ詳細をご覧いただければと思います。利用した証券会社は、SBI証券、SMBC日興証券、大和証券、野村證券、松井証券、岡三オンライン証券、東海東京証券、マネックス証券、いちよし証券、DMM.com証券、ライブスター証券の計11社です。各証券会社欄の記載した数字が申し込みをした株数です。つまり100と書かれていれば、その証券会社に100株申し込みを行ったことを意味します。また、抽選結果を色塗りで示しました。各色の意味は下表の通りですが、赤は当選、黄色は補欠当選の結果繰上当選、水色は補欠当選の結果繰上にならず落選、灰色は補欠当選したものの初値の公募割れリスクが高まり辞退、白は落選を意味します。ちなみに、SMBC日興証券は、当選者以外は全員補欠当選扱いとなるため、補欠当選の結果繰上当選になった場合のみ色を着けています。

 

実際の投資データに基づく集計結果

 

 

以上のように、当選(赤)はひとつもありませんが、繰上当選で獲得できたIPO(黄色)が2社ありました。「恵和」が大和証券で100株、「トゥエンティーフォーセブン」がSMBC日興証券で100株です。2社の当選により実際に得られた値上がり益は、下記の通りとなります。なお、売却の手数料は加味していません。

・「恵和」

値上がり益=(¥1,026ー¥770)×100株=¥25,600

・「トゥエンティーフォーセブン」

値上がり益=(¥3,800ー¥3,420)×100株=¥38,000

このように、2社合計で¥63,600を獲得することができました。売却手数料を加味しても、実際に6万円以上の利益が得られています。ネット抽選のみでも、11社の証券会社を駆使し、延べ251回、合計50,600株の申し込みを行った結果、年間6万円以上の利益が得られたことになります。この数字はあくまでも抽選の結果得られるものですので、運任せであり、参考値にしかなりませんが、ネット抽選は申し込んでも全く当たらない訳ではないという証明にはなるかと思います。そのため、手間をかけてでも、例え少額であっても、低リスクで確実に資金を増やしたいという考えで実施するのであれば、十分投資する価値はあるのではないかと思います。

 

また、この結果を見ていただければ分かるように、当選した2社はいずれも主幹事証券会社です。さきほど、IPO株の配分に関する解説をしましたが、主幹事証券会社から申し込みを行うことの優位性が実際に示されたことになります。だとすると、主幹事証券会社のみに絞って申し込みを行っていたとしても、同じ結果になっていた訳です。つまり、大幅に労力を削減し、同じ金額の利益を得ることが可能ということです。さきほど、延べ251回の申し込みを行ったと記載しましたが、もし主幹事証券会社に絞って申し込みをしていたと仮定すると、申し込み回数は約5分の1の延べ52回ということになります。そう考えると、労力に対するリターンの金額も、かなり見合ってくるのでないでしょうか。もちろん、人それぞれの価値観や投資スタイルによって感じ方は異なるかと思いますが、リスクを極限まで抑えて確実に資金を増やす投資を行うのであれば、この手法はひとつの選択肢になり得るのではないかと思います。

 

以上のように、IPOの抽選の仕組みと、ネット抽選への申し込みについて詳しく解説してきましたが、まずはこれらを十分に理解した上で、自分の投資戦略と得られる期待値について考えてみることをお勧めします。まず、店頭裁量配分を利用して大きな利益を狙うのか、ネット抽選配分を利用して煩わしい手間をかけずに小さな利益を狙うのかを決めることです。前者であれば、ネットで口座を開設するのではなく、証券会社の支店の窓口で口座開設を行う必要があります。後者であれば、ネットで口座開設を行います。そして、主幹事証券会社に絞ってネット抽選に申し込みを行うことで、費用対効果が上がります。また、主幹事証券会社でなくても、口座数の少ない証券会社から申し込むことで若干の当選確率アップは見込めます。このような戦略を取ることで、リスクを抑えながらも着実に資金を増やすことができるのがIPO投資であり、イベント投資という投資法の最大のメリットですので、ひとつの選択肢として考えてみるのもよいのではないでしょうか。また、繰り返しにはなりますが、公募割れリスクの高いIPOは絶対に避けるようにしてください。当然ながら、公募割れリスクの高いIPOは人気が低く、申し込みをする投資家が少ないため、当選確率が大幅に上がります。その結果、公募割れリスクの高いIPOにばかり当選し、損失ばかりが膨らんでいくという大きなリスクを伴います。公募割れリスクについては多くの投資家がインターネット上で分析結果を公開していますので、それらを参考に銘柄選びを慎重に行っていただければと思います。このように、リスク管理を十分に行った上で、自分自身の投資スタイルに合った方法で、IPO投資に取り組んでいただきたいと思います。

(1)IPOの抽選の仕組み:配分

主幹事証券会社:80〜90%

幹事証券会社:10〜20%

→主幹事証券会社から申し込む方が当選確率高い

機関投資家:10%

一般投資家:90%

一般投資家割当中の抽選配分

店頭裁量配分:90%=人間関係や交渉術を要する

ネット抽選配分:10%

→店頭裁量配分の方が有利

ネット抽選配分もゼロではない

口座数の少ない証券会社の方が当選確率高い

(2)ネット抽選への申し込み

1年間検証結果

2社繰上当選:いずれも主幹事証券会社

ネット抽選も全く当たらない訳ではない

主幹事証券会社に絞って申し込みを行うと費用対効果向上

公募割れリスクの高いIPOを避ければ優位性高い投資法