お金の価値

お金を増やすためにはお金の価値を知ろう


普段当たり前のように使用しているお金ですが、その価値の持つ意味について、考えたことはあるでしょうか。資本主義社会を形成する主役と言っても過言ではないお金。その価値は、一言で言うと「信用」なのです。「お金の価値=信用」です。

 

お金が使われていなかった昔は、基本的に物々交換で経済が成立していました。シルクロードを使った貿易でも、絹とスパイスを交換するなど、物々交換が多々行われていました。ここで重要なのが、価値が釣り合うように物と物を交換するということです。絹の品質と重さ、そしてスパイスの種類や品質と重さ、これらの価値が釣り合うように調整し、お互いの合意をもって交換が成立します。

 

やがて、画期的大発明とも言える「貨幣」の利用価値が社会に認められるようになり、物とお金を交換するようになりました。これは、物と同等の価値がお金にあるということを、社会全体が認めて初めて成り立つものです。万人からの大きな「信用」があって初めて成り立つ考え方なのです。

 

しかし、貨幣が作られた当初は、そこまで高い信用がありませんでした。貨幣経済自体がまだ当たり前ではなかったためか、現代のような絶対的な信用はなく、その対策として貨幣そのものに価値を持たせました。つまり、金貨や銀貨といった、価値のある金属で貨幣を作り、貨幣そのものに価値がある状態を保たせたのです。

 

代表的な例が、ローマ帝国の銀貨です。突然ですが、ローマ帝国がなぜ滅びたかご存知ですか?それは、軍事費の増大による財政破綻であると言われています。広大な土地を周辺の敵国から守るため、国境線に軍を配置していましたが、ローマ帝国があまりに広大であったため、当然国境線も長く、軍事費に膨大なお金がかかったのです。

 

そこで取られた財政立て直しの策が、銀貨の銀の純度を下げるというものです。ローマ帝国の銀貨は、当初、ほぼ100%(95%以上)の銀で作られていましたが、財政難が続くと、徐々に鉛などを混ぜて銀の純度を落としていき、貨幣を作るために必要なお金を削減しました。そして、最終的には銀の純度を3%以下にまで落としたと言われています。財政難により国の信用が低下し、国が発行する銀貨への信用も低下し、銀の純度が低い以上は物としての価値も当然低くなり、ついには貨幣自体が価値のないものになってしまいました。それにより、ローマ帝国も滅亡へと追い込まれました。

 

このローマ帝国の事例から私が言いたいことは、お金というものは、絶対的な「信用」があって初めて成立するということです。

 

現代の資本主義社会においては、通貨の種類にもよりますが、当然のように信用の置かれている通貨が多数存在します。日本円、米ドル、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、豪ドルなどがその代表例です。信用されているからこそ、お金として成り立つのです。

 

お金への信用が当たり前になった今、逆にお金を物として見たときの価値について考えてみると、面白いこと見えてきます。例えば、日本円の貨幣や紙幣の中で、最も価値のあるものは何でしょうか?おそらく、最高額面である一万円札と答える方が多いのではないでしょうか。これは、一万円札に1万円の価値があると「信用」しているからこのような答えになります。それでは、もし「信用」というものがなく、ただの物として見たらいかがでしょうか。一万円札はただの紙切れにすぎないのです。一万円札と同じ大きさのメモ用紙があったとしましょう。これを1万円で買いますか?という話なのです。だとすれば、お金を物として見たとき、最も価値のあるものは何でしょうか?

 

答えは、一円玉です。一円玉はアルミニウム100%でできています。一円玉の重さは1グラムですので、アルミニウム1グラムということになります。金属の相場は日々動いていますが、アルミニウムの相場はだいたい1キロあたり240円ですので、1グラムは0.24円ということになります。原料費だけで24%をも占めるため、製造原価となると1円を超えます。つまり一円玉には1円以上の価値があるということになります(アルミニウムの相場により1円以下になる場合もあります)。物としての価値が額面を上回る、日本唯一のお金が一円玉なのです。

 

世界に目を向けると、原料費だけで額面を上回る硬貨も存在します。オーストリアで発行されているウイーン金貨です。ウイーン金貨は純金でできていて(正確には99.9%の金)、100ユーロウイーン金貨の重さは1オンス、グラムに直すと28.35グラムです。金の相場がだいたい1グラムあたり5000円だとすると、この金貨は約14万円の価値があることになります。額面の100ユーロが1万数千円とすると、額面の10倍の価値がある貨幣なのです。

 

お金の価値を信用している現代社会において、額面を上回る価値があるということが、逆に新鮮に感じるかもしれません。

 

しかし、現代社会においても、世界に目を向ければ、お金の信用が低下し、本当に紙切れになってしまったという事例もあります。このような事態に陥る過程には必ず共通点があります。それは、財政が悪化し、それを立て直すために国が紙幣を増刷することで、インフレを引き起こしているのです。

 

歴史上において、教科書に出てくるほど有名なのは、ドイツのレンテンマルクです。フランスへの借金返済のためにドイツの通貨「マルク」の紙幣を大量に増刷し、それにより激しいインフレがおこり、通貨の価値が低下しました。通貨の価値が低下すれば、物を買うためにより大きな金額を払わなくてはならないため、高額紙幣が作られ、ついには通貨の単位を切り上げるという措置をとることになります。当時のドイツでは、100万マルクを1レンテンマルクとする通貨単位の切り上げを行ったのです。

 

このような事例は昔の話ばかりではありません。2015年、ジンバブエドルの通貨価値が、完全に消失しました。紙幣の増刷を繰り返した経済政策の失敗により、激しいインフレが起き、100兆ジンバブエドル札が発行されるという異常事態に陥り、最後には通貨価値が完全にゼロになりました。この100兆ジンバブエドル札は、世界で最もケタ数の多いお金と言われています。その後、ジンバブエでは、信用のある米ドルが使用されるようになりました。ちなみに私も100兆ジンバブエドル札を持っていますが、現在は通貨としての価値はゼロですし、増刷により大量に発行されていたものですので、今でも入手することができます。ご興味のある方は、ヤフオクなどで検索してみてください。

 

このような事例を見ても、通貨というのは信用により成り立っているということがよくわかります。「お金の価値=信用」という意味が、理解していただけたのではないでしょうか。

 

そもそもお金というのは、このような性質のものなのです。ですから、通貨そのものの信用も当然重要なのですが、お金を考える上で絶対に注視しなくてはいけないのは「信用」という切り口です。お金を増やす方法について考える場合も、もちろん同様です。

信用が高ければリスクは低い

信用が低ければリスクは高い

お金を増やす方法はたくさんありますが、あらゆる切り口から信用のレベルを評価し、リスクの大きさを把握した上で、どの方法を選択するかを判断してほしいと思います。信用という切り口で十分な評価を行うことが、お金を減らさないために最も重要なことですので、是非とも心がけていただきたいと思います。

ウイーン金貨(出典:gold.tanaka.co.jp)

100兆ジンバブエドル(出典:amazon.co.jp)

<参考文献>

・J.P.C. Kent, Roman Coins, 1978

・青柳正規. ローマ帝国; 岩波ジュニア新書, 2004

「お金の価値=信用」:お金は信用によって成立っている

お金を増やす方法は「信用」という切り口で十分な評価を行うべき

お金を減らさないために最も重要なこと