株式投資②

株式投資の裁量取引に絶対的な勝利の法則は存在するのか?


株式投資は、投資の中でもFXと並び人気がありますが、その手法は様々です。自らの裁量で売買を行う裁量取引をはじめ、株式売買の専門家である投資顧問からアドバイスを受ける方法や、資金を預け株式売買の全てを一任する投資信託、株価の変動とは関係なく配当金や株主優待を目的に株式を保有する方法などがあります。その中でも、大きな利益が期待できる裁量取引は特に人気があり、多くの投資家が挑戦しますが、その9割は負けているというのが現状です。その原因は明らかで、ほとんどの投資家が、「今後値上がりしそうな株を購入し値上がりしたら売る」という売買戦略を取っているためです。株式投資の基本から考えると、決して間違ってはいませんが、実はこの戦略はあまりにもリスクが大きく、非常に危険なのです。なぜなら、どれほどの有望株であれ、日本の株式市場全体が暴落を起こせば、ほとんどの場合、それに引きずられて値を下げるからです。これは、その企業の業績が例え好調であっても起こります。このような不可抗力が株式市場にはあるということです。これを考慮した上で、リスクを抑えて安定的に資産を増やしていかなくてはなりません。そのためには、このような不可抗力に耐え得る安全な戦略を意識的に取ることが非常に重要で、この考え方をベースに戦略を組み立てることで、リスクの高い株式投資も、極限までリスクを抑えて行うことができるのです。それでは、どのような戦略を立てていけばいいのでしょうか。株式投資の裁量取引における主な戦略の種類を挙げ、それぞれについて解説していきたいと思います。ここでは、裁量取引のみに特化して解説をしますが、株式投資のその他の手法についての概要は、別の記事に記載していますので、そちらを先に理解することをお勧めします。

>株式投資手法の概要について知る

 

株式投資の裁量取引における戦略は、主に5つに分類することができます。

・テクニカル取引

・両建てテクニカル取引

・サヤ取り

・低位株ファンダメンタル取引

・イベント投資(新規公開株投資"IPO投資"など)

経済全体の変動という極めて大きな不可抗力によるリスクを抑え、安定的に資産を増やしていくという視点において、裁量取引戦略の取捨選択は非常に重要となりますので、このような視点からそれぞれの戦略について解説していきます。

 

(1)テクニカル取引

株価予測の手法には、テクニカルファンダメンタルがあります。テクニカルは、株価推移のチャートデータをもとに、様々なインジケーターなどを活用して今後の株価予測を行うもので、過去のチャートから一定の法則に基づき未来の予測を行います。一方、ファンダメンタルは、個別企業や市場経済の状況などのあらゆる情報をもとに今後の株価推移を予測するもので、企業や経済の情報収集が重要となります。このように、裁量取引を行う上では、テクニカル、ファンダメンタルともに重要になりますが、実際のところ、いずれかのみを用いて取引を行っている人が多いのが現状です。特に、FXから投資の世界に入りある程度投資を学習している人は、テクニカルに偏りがちで、このような投資家は非常に多くいます。チャートのみから分析するこの手法は、FXの裁量取引と非常によく似ており、高度なスキルが必要で難易度が高く、十分な経験と学習が必要なのですが、勉強熱心でテクニカル分析に詳しい人も多くいます。しかし、株式投資の場合、チャートのテクニカル分析のみから値上がりする株を見つけ出し値上がりするタイミングを見極めるのは非常に困難です。なぜなら、テクニカルのみでは、経済全体から受ける不可抗力の影響は避けられないためです。そのため、結局のところ、テクニカルを主とした取引戦略であっても、ファンダメンタル分析も併せて行う必要がでてきます。ファンダメンタル分析は、経済全体の状況を分析すると同時に、個別企業の情報も常に収集する必要があります。特に、取引を行う個別企業については、決算日、株式分割、株式統合、上場廃止などの重要な情報は常に意識をしておく必要があります。これに関しては、どのような戦略で株式取引を行う場合においても必要となりますので、頭に入れておいてください。いずれにしても、テクニカル分析のみで値上がりする株を見つけ、値上がりするタイミングを見極めるのは非常にリスクが高く危険ですので、このような取引は避けるようにしてください。テクニカルに関する知識がある人ほど、ファンダメンタル要因で失敗してしまうのが、株式投資特有の特徴です。ちなみに、FXなどの為替取引を経験せず、雑誌などで株式投資に興味をもち株式取引を始める人は、ファンダメンタルに偏る傾向がありますので、こちらも注意が必要です。このように、株式投資の世界においては、テクニカル取引と言えど、ファンダメンタルも併せた両方のスキルが必要ですので、非常に難易度が高いと言えます。そのため、このような手法で取引を行い安定的に資産を増やしていくためには、十分な学習と経験が必要となりますので、片手間で行うレベルの安易な気持ちで挑戦をするのは避けた方がよいでしょう。

 

(2)両建てテクニカル取引

テクニカル取引は、前述した通り難易度が極めて高く高度な裁量スキルが必要で、十分な学習と経験そして覚悟が必要ですが、その取引を少しでもリスクを抑えて安全に行う方法として両建てテクニカル取引があります。ロング(買い)とショート(売り)をセットで仕掛けるという手法です。チャートをテクニカル分析し、株価が値上がりする可能性の高い株と値下がりする可能性の高い株を探し出し、前者を買い、後者を売りで同時にセットで仕掛けます。その際、買いも売りも複数仕掛け、その時の買いの合計金額と売りの合計金額がほぼ同額になるように株数を調整します。これにより、経済全体の動向による不可抗力の影響を最小限に抑えることができます。例えば、何らかの外的要因により日本の株式市場全体が暴落し、日経平均が大幅に下落したとします。通常であれば、テクニカル分析の結果にかかわらず、日経平均の下落に引っ張られ、ほとんどの銘柄が値を下げます。そのため、テクニカル分析により値上がりすると予測して買っていた株は下落し、大きな損失を出します。しかし、テクニカル分析により値下がりすると予測して売っていた株も同様に大きく値下がりしますので、こちらでは大幅な利益が出ます。その結果、買いと売りの合計金額を揃えておけば、トータルとして大きな損失を出すことはなく、経済全体の不可抗力をあまり気にせず、チャートのテクニカル分析に集中して取引をすることができるのです。テクニカル取引を行う場合は、売りのできる信用取引を活用し、必ずこの方法で行うようにしてください。どれだけ慎重にテクニカル分析を行ったとしても、絶対に買いだけの仕掛けはしないようにしてください。経済全体の動向、すなわち日経平均の影響は、少なからず受けますので、リスクが高すぎます。尚、個別銘柄の決算日は、日経平均やテクニカルとは全く別の値動きをしますので、十分に注意をしてください。このように、テクニカル取引を行う場合は、必ず両建てで行うことが重要です。買いと売りでヘッジをかけるのです。このヘッジをかけるという考え方こそが、リスクを抑えて安定的に資産を増やし続けるためには、絶対に必要なことです。余談になりますが、ヘッジファンドという言葉を聞いたことがあるかと思います。ヘッジファンドは、顧客の資金を預かって安全に増やしていくのがミッションとなるため、必ずヘッジをかけて運用しています。だからヘッジファンドと呼ばれるのです。このように、プロが使用する手法がヘッジをかけるという手法ですので、この考え方を常に頭に置いて取引を行うよう意識してください。

 

(3)サヤ取り

テクニカル取引および両建てテクニカル取引は、いずれも過去のチャートを分析し、今後株価が上がるか下がるかを予測して取引する手法でしたが、サヤ取りはこれらとは全く考え方が異なり、今後の株価は一切予測しない手法になります。両建て取引を行うという、ヘッジを取る手法ではあるのですが、両建てテクニカル取引のように、株価の予測は一切せず、チャートそのものもほとんど見る必要がありません。勝率が非常に高く、ロジック上はリスクの低い極めて優れた手法で、ヘッジファンドも使用しています。それでは、サヤ取りの具体的なロジックについて説明したいと思います。

 

日本には約3000〜4000の公開株式がありますが、その中には、株価が同じような値動きをしているものがあります。特に同業種の株式において、そのような相関性の高い株が存在する傾向にあります。例えば、以下に金融業界の2銘柄の株価チャートを示しますが、見ていただく通り、似たような値動きをしていることが分かります。

 

データ引用元;Yahoo!ファイナンス(https://stocks.finance.yahoo.co.jp/)

 

このように相関性の高い2銘柄の株価ですが、同じように推移しながらも、乖離が生じることがあります。この生じた乖離のことを「サヤ」と呼びます。相関性高く推移している2銘柄の間に一時的に生じたサヤですので、近いうちに乖離は収束し、サヤはなくなる可能性が高いと考えられます。その根拠は、過去においてもこの2銘柄のサヤが開いたり閉じたりを繰り返しながら、高い相関性を保って推移し続けていることを確認することで得られます。このような、相関性の高い2銘柄間に、一時的に生じたサヤを利用して利益を上げていきます。

 

 

まず、相関性の高い2銘柄を選出し、それらのサヤが開いていることを確認します。また、過去においてもサヤが開いたり閉じたりを繰り返していることを確認します。これらが確認できたら、開いたサヤにおいて低い方の銘柄を買い、高い方の銘柄を売ります。その後、想定通りサヤが収束した時点で、両方ともを手仕舞い(決済)します。この時、株価が上がったか下がったかは全く関係なく、2銘柄のサヤが収束したことだけを確認するのです。もし仕掛けた時点の株価と比べ、2銘柄とも下落していたとした場合、買いの銘柄は損失、売りの銘柄は利益が出ているはずですが、サヤが閉じたということは、買いの損失より売りの利益の方が大きくなり、合計でプラスになっているはずです。このように、個別銘柄の損益は一切関係なく、ペアの合計で損益を考えます。サヤが閉じていれば合計で利益が出ますし、万が一サヤが更に開いてしまうと損失になります。万が一のことも起こり得ますので、損切りのルールは決めておく必要がありますが、相関性の高い2銘柄を選出していれば、サヤが開き続けることは考えにくく、勝率は非常に高いと言えます。これがサヤ取りのロジックと手法になります。

 

 

サヤ取りのロジックの概要は理解できたかと思いますが、どのように相関性の高い2銘柄を見つけ出せばいいのか、そしてどのようにサヤの開閉を確認すればいいのでしょうか。先ほども説明しましたが、この手法はヘッジファンドも使用するほどの優れた手法ですので、これらの情報を抽出することができるソフトも存在します。ソフトにより機能は異なりますが、基本的に、相関性の高い銘柄の抽出とサヤの開閉を識別する機能は揃っています。ここでは説明のために、WEB上で使用できる無料のツールを一つ紹介します。サヤ取りについて知るという意味でも、試しに触ってみるとよいかと思います。

>サヤ取りツール(外部リンク)

 

それでは、先ほど例示した金融業界の2銘柄について、サヤ取りソフトで解析してみます。実際に解析したサヤチャートと呼ばれるものが以下に示す図です。

 

データ引用元;サヤトレ(https://investars.jp)

 

このグラフは、株価を示しているのではなく、相関する2銘柄間のサヤをグラフ化したものです。青線がサヤを示しており、赤線がサヤの平均線、つまりサヤが閉じている状態になります。チャートを見ていただくと分かる通り、サヤが平均線を中心に上下往来を繰り返しています。青線が赤線から離れているほどサヤは広がっていることを意味し、上側に離れている場合と下側に離れている場合で、2銘柄のどちらの価格が高いか安いかが逆転します。また緑色の帯で示す範囲は、濃い緑が平均±1σ、薄い緑が平均±2σです。σとは、標準偏差を意味します。統計学におけるこれらの意味の詳細な解説は割愛しますが、統計学上、平均±2σの範囲内に95.45%が入るとされていますので、4.55%の少ない確率で起こる平均±2σの範囲外までサヤが開いた時は、その後サヤが収束する確率は非常に高いことがわかるかと思います。実際にサヤチャートの図をみていただいても、青い線が薄い緑の範囲を逸脱した場合、その後必ず近いうちにサヤは収束に向かっています。このように、サヤが平均±2σの範囲外に開いた時が仕掛けのチャンスで、サヤが閉じたら手仕舞いする、これを繰り返すことで、理論上は非常に高い確率で利益を積み重ねていくことができるのです。なお、サヤが開いた時の仕掛けにおいて、売りと買いの銘柄が逆にならないように十分に注意してください。また、売りと買いの金額が同じになるように、取得する株数を可能な限り調整するようにしてください。ソフトを使用することで、相関性の程度も確認することができますが、当然相関性が高いペアほどローリスクローリターン、相関性が低いペアほどハイリスクハイリターンとなりますので、投資戦略に合ったペアの選定が必要となります。概して、同業種のペアは相関性が高く、異業種のペアは相関性が低い傾向にあります。

 

これまで説明してきた手法が、サヤ取りと呼ばれる、リスクを抑えて安定的に資産を増やしていく上で極めて理にかなった方法です。ただし、日本の個別株は取引量も減っており、近年はノイズが多くなってきている傾向にあるため、サヤ取りの難易度も若干上がってきています。サヤ取りの基本的な概念はここで解説した通りですが、銘柄ペアの抽出方法や、仕掛けるタイミング、利食いのタイミング、ロスカットのタイミングに関するルールなど、細かい戦略は様々です。そのため、それぞれの戦略によりリスクとリターンの大きさは異なりますし、難易度も異なります。近年では、サヤ取りを行うプロトレーダーであっても年利5〜10%程度で、労力の割に薄利であるという声も聞かれます。一方で、高度な機能を搭載した有料のソフトを使うことで、より多くの利益を得ているというトレーダーもいます。サヤ取りという手法自体は、極めて優れた株式投資の手法となりますので、実際にサヤ取りにチャレンジをする際は、より深く学習をした上で取り組まれることをお勧めします。

 

(4)低位株ファンダメンタル取引

低位株ファンダメンタル取引とは、株価が比較的安い銘柄(低位株)の中で、本来はもっと高い価値があると想定される銘柄の株式を取得し、高騰するのを待ち続け、価格が上がったら売るというもので、株式投資の中でも王道中の王道とも言うべき手法です。冒頭でも書きましたが、安い時に買って高くなったら売るというリスクの高い取引なのですが、低位株に絞っているという点が最大の特徴です。低位株に絞るメリットは、それ以上株価は下がりにくいという点にあります。通常、株価が上昇すると予測される銘柄であっても、経済状況などの不可抗力により、株価が下落する大きなリスクを含みますが、本来は高い価値のある低位株に限って言えば、比較的不可抗力の影響を受けにくいのです。ただし、それだけではやはり危険ですので、更にリスクを分散することが大切です。低位株は、価格が安いというメリットがありますので、資金を分散して同時に多数の有望低位株を保有し、値上がりしたら売り、また新たな有望低位株を取得するというように、常に高騰する可能性のある有望低位株を複数分散保有ながら回転させていくのです。資金量次第ではありますが、5〜10銘柄程度を常に保有することで、リスクは分散され、回転率も上がります。これが、低位株ファンダメンタル取引と呼ばれる手法の正しい戦略です。そして当然ながら、この手法においては、いかに有望低位株を見つけ出すかが極めて重要となります。これは、企業の業績情報を十分に調べて分析する必要があります。業績情報の収集方法については、四季報などといった様々な情報源から収集することができますが、この詳細についてはまた別の記事で解説したいと思います。また、ファンダメンタルの視点から本来の価値に比べて割安の有望低位株を見つけ出すのですが、ある程度のテクニカル視点も入れた方がより安全ですので、その点も含めて学習するとよいでしょう。いずれにしても、王道と言われる低位株ファンダメンタル取引ですが、必ず複数分散保有をして回転させるという戦略を取り、安全かつ効率的な運用を行なっていただければと思います。

 

ちなみに、多少余談にはなりますが、仕手株という言葉を聞いたことがありますでしょうか。仕手株の高騰を狙うという取引手法があり、この手法も、低位株ファンダメンタル取引に表面的には似ているのですが、本質的には全く異なる手法ですので、十分に気をつけてください。仕手株というのは、価格が安く、取引量の少ない銘柄を対象に、特定の投資家が大きな資金量を武器に自ら大量に買い付けて株価を高騰させ、その後売り抜くというもので、いわゆる仕掛けられた株です。一般投資家は、この高騰に乗って利益を狙います。もちろん、成功すれば大きな利益を得ることができますが、ファンダメンタル要素により値上がりするべくして高騰しているわけではなく、人為的に高騰しているだけですので、予想することは不可能に近い手法になります。そのため、大きなリスクを伴いますので、リスクを抑えて安定的に資産を増やし続けるという、このサイトの目的とするところからは外れていますので、十分に注意をしてください。なお、仕手株の見分け方としては、全くと言っていいほど価格が動かない時期が長期にわたって続く場合が多いという特徴がありますので、参考にしてみてください。このような銘柄見つけた場合は、注意が必要ですので、念入りにファンダメンタルの分析を行うようにしてください。

 

(5)イベント投資(新規公開株投資"IPO投資"など)

イベント投資とはイベントドリブンとも呼ばれる投資手法で、株式市場に起こるある特定のイベントに着目し、そのイベントにより株価がどのように変動するのかを明確な根拠に基づき売買します。重要な点は、イベントによる株価変動の多くは根拠に基づいているため、その根拠を研究し理解することで、極めて優位性の高いトレードをすることができます。イベント投資の中でもよく知られた手法としてIPO投資がありますので、ここではIPO投資を代表例として解説していきたいと思います。IPOとはInitial Public Offeringの略で、株式公開を意味します。このような、新規株式公開される銘柄の株を上場前に購入し、上場後の初値で売却することで利益を上げる手法がIPO投資です。この手法で利益を上げるための条件は、新規上場株式(IPO株)を上場前に取得できること、そして取得したIPO株を公開後の初値で売却した際に上場前取得価格(公募価格)より高値を付けていること、これら2点を満たせば必ず利益を得ることができます。まず、どのようにしてIPO株を上場前に取得するのかについてですが、証券会社が公募を行いますので、それに応募をして当選することで取得できます。当選するかどうかは運任せで、応募をしてもなかなか当選することができず、IPO投資を諦めてしまう人も多くいるのですが、当選する確率を上げる手段もあります。例えば、IPO株式は各証券会社に割り当てられて公募されるのですが、公募株式数の多い証券会社で申し込むことで当選確率を上げることができますし、公募株式数に対する証券会社に口座を開いている人数の割合まで計算をすれば、更に確率を上げることができます。IPO抽選の仕組みや実際の当選確率については、別の記事で詳細に解説していますので、参考にしてみてください。

>IPO抽選の仕組みと実際の当選確率について知る

このようにして取得したIPO株を、公開後に売却します。先ほど記載した通り、公開後の初値で売却するという手段を取れば、全く裁量判断を伴うことなく取引ができますので、裁量スキルを習得する必要がありません。もちろん、裁量スキルを習得し、しばらく値動きを確認した上で成行で決済することも可能です。

 

それでは、IPO株は、公募価格に対して公開後初値の方が高値を付けるのでしょうか。実際に過去のデータを見てみます。下記の表は、IPO株の取り扱い数が多いSBI証券にて取り扱われた1年間のIPO株について、公募価格と公開後初値をまとめたものです。2018年のデータになりますが、86銘柄中77銘柄で値上がりし勝率は約90%、増減倍率の平均は106%です。つまり、平均で約2倍になっているということです。このように、非常に高い確率で、非常に大きな幅で、値上がりしていることがわかります。

 

公開データに基づき集計

データ引用元1;Yahoo!ファイナンス(https://info.finance.yahoo.co.jp/ipo/)

データ引用元2;SBI証券(https://www.sbisec.co.jp)

 

それでは、なぜこのように高い確率で値上がりするのでしょうか。その理由は、公募価格の決定方法にあります。これから上場する株ですので、市場に公開された時点でどれほどの価格になるかはわかりませんが、市場で付く株価というのは、その企業の評価と言い換えることができます。つまり、その企業を適正に評価することで、公開後の株価を推測し、公募価格を設定しています。公募価格の設定には、主幹事証券会社などが関わっていますが、その際、企業評価の結果適正と思われる価格より、少し低く公募価格が設定されるのです。この理由は単純で、IPO株を売り切るためです。株式公開というのは、企業が資金を調達する目的で行うものですので、株式を売り切ることは最優先命題です。このように、低く公募価格を設定することを、IPOディスカウントと呼びます。従って、プロが評価して適正と思われる価格より安く設定されている訳ですから、公開後の価格の方が高くなる可能性が大きくて当然と言えます。このように、公募価格に対して公開後初値の方が高いことの根拠は明確であり、実際のデータとしても明らかにその傾向が見られていますので、高い確率で資産を増やすことのできる非常に優れた投資手法であると言えます。

 

しかし、過去のデータを見ても分かる通り、公募価格に対して公開後に大幅に値を下げている事例も散見されます。これを公募割れと呼びます。上記の表では、マイナス37%という銘柄が確認できます。公募割れにも程度は様々ですが、大幅な公募割れが起こりうることを考えると、リスクも決して低くないと言えます。また、過去15年間のIPO上場株式について、年ごとに集計したデータを下記の表に示します。こちらを見ると、リーマンショックの2008年、そして2010年に、年間の勝率が50%を割っています。このように、経済状況によっては、勝率が著しく低下する可能性もあるのです。ただ、勝率が約40%であった2008年においても、騰落率が最も低かった銘柄は「トライステージ」という銘柄で、約マイナス35%でした。これは、勝率の高かった上記の2018年とほぼ同水準です。つまり、経済状況によって勝率は左右されるとは言え、プロが企業を評価して設定された公募価格な訳ですから、公募割れによる落ち幅は一定水準に限定されるということなのです。だとすれば、勝率さえ上がれば、安定的に運用することが可能ということになります。つまり、公募割れによるドローダウンは一定水準に抑えられていますので、可能な限り公募割れを起こす可能性のあるIPO株の購入を避け、勝率を上げることに重点を置いて取引回数を重ね、長期的に運用をすることができれば、極めて優位性のある投資手法なのです。

 

 

公開データに基づき集計

データ引用元;Yahoo!ファイナンス(https://info.finance.yahoo.co.jp/ipo/)

 

そこで重要となるのが、IPO株の取捨選択です。公開後に値上がりする可能性の高いIPO株を選定して取得するということです。実は、値上がりする可能性の高いIPO株にはいくつかの共通点があります。企業の評価がプロにより行われた上で公募価格は決まっていますので、企業評価の部分で大きなミスは起こりにくいと考えると、取引の仕組みの部分に不均衡性があるということなのです。ひとつ例を挙げると、発行株式数が多いほど、需要に対する供給の割合が大きくなりますので、必然的に価格は下がりやすくなります。このように、取引の仕組みと市場の基本原理に則って考えることで、公募割れする可能性の高いIPO株を避け、値上がりする可能性の高いものを選択して投資することができるのです。これにより、リスクを極限まで抑え、高い確率で資産を増やすことができるのです。チャートを読むスキルが必要ない一方で、市場の原理を考え、適切な戦略を立てる必要のある投資手法ではありますが、見るべきポイントを身につけてしまえば、リスクが低く安定的に資産を増やし続けることのできる優れた手法ですので、検討してみるのもよいかと思います。

 

 

以上のように、株式投資の裁量取引における戦略について、主な5つを解説してきました。テクニカル取引、両建てテクニカル取引、サヤ取り、低位株ファンダメンタル取引、イベントドリブン(IPO投資など)の5種類です。この中で、経済全体の変動という極めて大きな不可抗力によるリスクを考えると、一般によく行われる、特定の銘柄を安い時に買って株価が上がったら売るというテクニカル取引は、大きな危険を伴うと言えます。一方で、ヘッジを取る手法である両建てテクニカル取引とサヤ取りは、リスクが非常に低く安全と言えますし、値上がりする根拠が明確なIPO投資は、更に安全で確実と言えます。また、ファンダメンタル分析の高いスキルを必要とする低位株ファンダメンタル取引も、リスクを分散させることで優位性を保つことが可能です。株式投資の裁量取引と言えどその手法は様々で、リスクを極限まで抑え安定的に資産を増やしていくという視点において、裁量取引戦略の取捨選択は非常に重要となりますので、このような視点から自分に合った戦略を選択してほしいと思います。

株式投資の裁量取引の種類

(1)テクニカル取引

過去チャートから一定の法則に基づき未来を予測

経済状況による不可抗力の影響あり高リスク

(2)両建てテクニカル取引

テクニカル分析を基に売りの株と買いの株をセットで仕掛ける

売り買いとも複数仕掛けヘッジをかける

(3)サヤ取り

相関性の高い株のサヤに着目しペアで両建てする

サヤが開いたら仕掛け閉じたら手仕舞い

(4)低位株ファンダメンタル取引

低位株を取得し高騰したら売却する手法

有望低位株を複数分散保有ながら回転させる

(5)イベント投資(IPO投資など)

イベントによる根拠に基づく価格変動を利用した取引

例えばIPO株を上場前に購入し上場後初値で売却する手法

勝率が非常に高い優れた手法