飲食店は、何でも屋より、何かに特化した専門店にした方が繁盛するという話をしばしば耳にします。確かに、繁盛している話題の専門店は多々ありますが、果たして専門店化することで儲かるという明確な根拠はあるのでしょうか。そして、専門店化することは本当に得策なのでしょうか。そこで、この記事では、飲食店の専門店化について、メリットとデメリットに分けて検証していきたいと思います。
飲食店に来店するお客様は、何か目的があって、数ある飲食店の中からそのお店を選んでいます。その目的は様々で、料理、店の雰囲気、立地、価格、サービスなどが考えられますが、やはり最も分かりやすいのが料理です。数ある飲食店の中から、ある目的のためにお店を選ぶわけですから、その目的に合致しているお店が選ばれるのは当然であり、合致しているかどうかがわかりやすいことが非常に重要です。つまり、お店の売りは何なのかが明確であることが非常に重要なのです。お店の売りが料理なのであれば、料理の何が売りなのかということです。それを明確に示すための最も分かりやすい究極の手段が「専門店化」なのです。これが、専門店化することの根底にある考え方になります。
そう考えると、確かに専門店化をすることで、お客様に来店していただける確率が増し、繁盛するように思えます。専門店の具体的な例としては、メジャーなところでは「ふぐ料理専門店」「松坂牛専門店」「豆料理専門店」などが挙げられますし、マイナーなところでは「さば料理専門店」などが挙げられます。ちなみに、あくまでも食材切り口の専門店のことを、ここでは専門店と呼ぶこととします。料理切り口まで含めてしまうと、ラーメン専門店、ピザ専門店、寿司専門店など、むしろそれが普通と言えますので、ここでは除外します。
それでは、これを踏まえて、メリットとデメリットについて解説していきたいと思います。
(1)メリット
①プロイメージ
まず1つ目のメリットは、プロイメージです。ふぐ料理専門店であれば、ふぐに関しては一流であるに違いないというイメージを与えることができるということです。質のいい新鮮なふぐを使用していて、ふぐについての知識が豊富でふぐの扱いに慣れた腕のいい一流料理人がさばいていて、美味しいに違いないというイメージです。専門店であるというだけで、勝手にこのようのプロイメージを与えることができるのです。ですので、どうせふぐを食べるなら、ふぐ料理専門店で食べようという考えになるのです。
②話題性
2つ目のメリットは、話題性です。珍しい専門店であればあるほど、話題性は高まります。さきほど専門店の具体例を挙げましたが、ふぐ料理専門店や松坂牛専門店に比べ、さば料理専門店は珍しく、この食材だけで専門店が作れてしまうのかという驚きも感じます。このように、競合の少ない専門店であればあるほど話題性も高まります。それにより、メディアに注目されたり、口コミにより自然に拡散されたりと、様々な宣伝効果も期待できます。
③原料集約による原価率抑制
最後に3つ目のメリットは、原料集約による原価率の抑制です。専門店化することで、何でも屋に比べて原料の種類を大幅に絞り込むことができます。それにより、原料の調達ルートを絞り込むことができ、特定ルートから大量に仕入れますので、単価を抑えることができます。また、原料の種類が少ないため、つまり特定の原料を用いて多くのメニューに展開しますので、原料の廃棄率を大幅に削減することができます。
(2)デメリット
①流行り廃り
まず1つ目のデメリットは、流行り廃りがあるということです。つまり、数年先の売り上げが全く予測できず、商売が安定しないのです。食材を特定することで、たまたまその食材のブームが来れば爆発的に売れますし、ブームが去れば売り上げは一気に低下します。ですので、もし専門店化を考える場合は、むしろ一時的なブームの起こりにくいありふれた食材で専門店化をした方が、商売の安定という面では望ましいと言えます。しかし、メリットとして挙げた「話題性」を考慮する場合、当然特徴ある食材を選びたくなります。特徴を出そうとすればするど、どうしても一般的でありふれた食材からは離れていき、ブームの影響を受けやすい食材になっていきます。ここがメリットとデメリットの表裏一体な部分になりますが、このサイトではリスクを極限まで抑えることを重視していますので、このデメリットを最小限に抑えた上で専門店化を考えるのであれば、一般的な食材で専門店化を目指す方が得策です。例えば、ニンジン料理専門店、鶏ムネ肉料理専門店などが挙げられます。
②差別化リスク
2つ目のデメリットは、差別化リスクです。食材切り口での専門店ですので、当然ながら食材の種類は無限にあるものではないため、世の中にある食材の中から選ぶ以上、他店とかぶる確率は高くなります。特に、さきほど例に挙げたようなふぐ料理専門店であれば、日本中に数え切れないほど存在します。つまり競合が非常に多いということです。そこで、競合との差別化を図るため、他店とかぶらない食材を選ぶという考え方になりますが、差別化をすればするほどどんどんニッチな食材になっていきます。その結果、1つ目のデメリットとして挙げた「流行り廃り」の影響を大きく受けるようになるのです。ニッチ食材で専門店化することは、「話題性」というメリットを大きく享受できる可能性は高くなりますが、「流行り廃り」の影響を受けやすくなるため、分かりやすく言うとハイリスクハイリターン型のビジネスと言えます。
③特定食材リスク
最後に3つ目のデメリットは、特定食材リスクです。さきほど、特定食材にすることで、原価率を抑えることができるというメリットをお伝えしました、実は特定食材にすることによる大きなデメリットも存在します。それは、ある特定の食材に店のメニューのほとんどが依存しているため、もし何らかの理由でその食材の調達が難しくなった場合、一気に店存続の危機にまで陥るのです。具体的には、異常気象によりまぐろなどの水産物や、野菜などの農産物がとれない、台風被害によりりんごがとれない、国際的な貿易問題により小麦粉や大豆の価格が高騰する、BSE問題により牛肉が入手できない、鶏インフルエンザにより鶏肉が入手できない、衛生面の配慮から法律により生肉の提供が禁止されるなど、挙げればきりがありません。いずれも一度は耳にしたことがあるかと思いますが、このような店存続の危機にも陥りかねない重大な問題に、いつ自らが選んだ特定食材が巻き込まれるかわからないという大きなリスクに常にさらされるのです。このサイトでは、リスクを極限まで抑えることに重点を置いていますが、このリスクは、あまりにも大きいと考えられます。全てのメリットを加味したとしても、このデメリットは大きいのではないでしょうか。順調に店が軌道に乗り、売上が伸び、知名度が上がってきたとしても、一夜にして店存続の危機に直面する可能性があり、しかもそのリスクは自らのコントロールが全く及ばないところで起こるわけですから、極めて大きなリスクであると言わざるを得ません。
ここまで説明してきたように、専門店化にはメリットとデメリットがあり、当たれば大きいがリスクも大きいのが専門店です。リスクを極限まで抑えて確実に商売を長く続けるという視点においては、簡単にお勧めできるものではありません。ハイリスクハイリターン型のビジネスとなるため、ある程度のリスクを許容した上で大きなリターンを狙うという考え方であれば適した方法かと思いますので、それらのバランスを十分に考える必要があると言えます。
このように、専門店化をすることは大きなリスクを伴いますが、非常に優れたビジネスモデルであることもまた事実ですので、専門店の要素を取り入れることで、専門店のメリットの一部を享受するという考え方は大いに有効です。例えば、専門店化のメリットとして「原料集約による原価率抑制」を挙げましたが、この要素だけを取り入れるという手段が考えられます。具体的な例として、一般的な定食屋がこの要素を取り入れる場合について考えてみましょう。唐揚げ定食を提供していたとします。このメニューが人気なので、売上をさらに上げるために、メニューの種類を拡大させるとします。その際、唐揚げ定食にハンバーグを付けた、「唐揚げハンバーグ定食」にするのではなく、味付けの異なる3種類の唐揚げを盛り合わせた「3種の唐揚げ定食」にするのです。つまり、これまで提供していなかったハンバーグという新しいメニューが加わることで、使用する原料数が増え、原価率は上がります。調理効率も低下しますので、利益率はさらに下がります。一方、3種の唐揚げ定食にすることで、メニューの幅を広げながらも使用する原料数にはほとんど影響を与えず、むしろ店全体としての原価率は下がる方向に働くのです。
このサイトではリスクを極限まで抑えることを重視していますので、専門店化することのリスクは大きいと言わざるを得ませんが、専門店のメリットの一部を享受できるようなメニュー設計方法を取り入れることで、ローリスクミドルリターンの堅実な経営をすることがきます。是非とも、それぞれのメリットとデメリット、リスクとリターンをしっかりと考え、お店の方向性を決めていただきたいと思います。
飲食店の専門店化
専門店化=お店の売りを明確化する究極の方法
(1)メリット
①プロイメージ
専門店は美味しいに違いないというイメージ
②話題性
メディアや口コミによる宣伝効果
③原料集約による原価率抑制
原料絞り込みによる単価抑制と原料廃棄率低減
(2)デメリット
①流行り廃り
ブームの影響を受けやすく商売が安定しない
②差別化リスク
差別化するほどニッチ食材になる
③特定食材リスク
食材調達困難時に店舗存続の危機
専門店はハイリスクハイリターン型ビジネス
ビジネスモデルは優れている
メリットの一部を享受できるメニュー設計方法
→ローリスクミドルリターンの堅実な経営